乙女よ、君と別れるに先立って

ああ、わが心をわれに戻せ

いな、わが心はすでにわがものではないのだから

君の手にいまは委ねよう、いな、そればかりではない。

旅立ちのまえの、わが誓いに耳をかたむけよ





「わがいのちなる君よ、われ君を愛す」





恋。





君がひとたび微笑めば、
この心は軽くなり、どことなりと飛んでいってしまいそう


君が拗ねたような、少女の顔を見せたとき
僕の心はくすぐられ、本当に愛おしく愛おしく、愛らしく


君のその、奥深い海色の瞳から涙が流れ落つる時、
僕の心に波紋が起こり、たまらなく、君を抱きしめたい衝動にかられ






いつだって、傍に

すぐ右隣に、背中に、いてくれるから

いつだって、錯覚してしまう





僕達は、いつまでも一緒

二人で、時を刻んでゆける

いつまでも












そんなのは、錯覚でしかなく

いつかは、離れ離れになってしまう、運命



僕が風の戦士であるかぎり

君が海の戦士であるかぎり



僕が天王星の守護のもと、生まれてくる限り

君が海王星の守護のもと、生まれてくる限り



きっと、永遠に



抗えることのできない



使命という名の、




鉄の楔









このまま、永遠に君を離したくない、とか

このまま、永遠に二人きりでいたい、とか





君を抱きしめたいと叫ぶ腕、とか

君に口付けたいと望む口唇、とか

君の髪に触れたがる指先、とか





君の頬に、首筋に、指先に、





君という存在全てにかける、この想い





恋に恋焦がれて





涙する





それは、君のためだけでしかなくて





君だけのためで





永遠に、君だけのためで





他に、誰も要らない、ただ君だけのために









どんな、雨に打ち拉がれようとも

どんな、非難に打ち拉がれようとも




ただ、君が




僕を、好きだと言ってくれるなら




ただ、君が




僕の、傍にいたいとその口唇で紡いでくれるなら




この身を持って、君を護ろう




この身を盾として




この身を剣として




君を傷付け、悲しませる全ての存在から




君を、護ろう





「・・・か。」





それこそ、僕のこの世界に





「・・・るか、はるか。」





この使命に





「お眠りなのかしら、はるか?」





身を置き、縛りつけてまで、留まる理由なんだ





「夢の世界の住人になるのもよいけれど、そろそろこちらに戻っていただかないと。」





僕の、存在理由なんだ





「私を独りきり淋しく待たせるだなんて、なんてひどい王子様なのかしらね。」





君を独りきり淋しく待たせるようなことなど、しない





神に、誓って





「そろそろ、お目覚めの時間よ、私の王子様。」





落ちてきたのは





右の頬に、暖かく柔らかい感触





待ちに、待ち焦がれた、感触





瞼を開ければ、君は眩しいほどの笑顔を僕に向けて





「待ちくたびれちゃったわ。」
「・・・ごめん。」
「随分とおつかれだったのね。
 私がいない間、ちゃんとご飯食べていたの?」
「・・・うん。」
「そう。
 でも、とてもじゃないけれどそうは思えないわね、あれを見ちゃうと。」





彼女の細く白く、長い指が指すものを見て、僕は言葉を失くす。





「お願いよ、ちゃんとしたものを口にしてちょうだい。
 これじゃあ貴方の身がもたないわ。
 貴方の身体は、ただでさえデリケートなんだから・・・
 お酒を飲むのもいいけれど、ちゃんと限度を・・・。」





数日振りに、聞く声





見る、顔





「ねぇ、はるか。
 ちゃんと聞いているの?
 はる・・・きゃっ!」





感じたい、その暖かさ





「はるか・・・?」
「しばらく、このままでいて・・・。」





甘えたい、この身体全体で





ふぅ、とため息が漏れて、腕が背中に回される。





「ただいま、はるか。」





彼女を抱きしめる腕に、さらに力を込めて





「・・・おかえり。」





そう絞り出すのが、精一杯だった。




















多島海の海風が吹き戯れる

梳きながした君の髪にかけて

茜さす君のやわらかな頬をなぶる

黒い睫毛の縁どるあの瞼にかけて

小鹿のように悩ましげなあの眼差しにかけて





「わがいのちなる君よ、われ君を愛す」





その味わいをわが憧れるあの唇にかけて

帯をめぐらすあの腰にかけて

ことばでは告げ得ぬことなども

いみじくも語り告げるすべての花々にかけて

また、こもごもに心をおそう恋の喜びと憂いにかけて


















「わがいのちなる君よ、われ君を愛す」











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 後書き、という名の言い訳

  お題は〜・・・
  『はるか一人称で、はるかが真面目にみちるへの愛を語る』

  ・・・

  ・・・・・

  ええっと・・・

  言い訳する言葉も見つかりません・・・。

  なんか、長いというよりも、行間空けすぎなだけで、読み辛い、ですか??
  予定では、はるかにもっともっとクサイ台詞を言ってもらうつもりだったのですが、
  思うところがあって、やめました。
  真面目に語るんですものね。
  そこにはやはり、現在だけではなく過去の想いも当然絡んでくると思えまして。
  それで、どーじてこんなんになったかは、何も言うこと出来ませんが・・・(滝汗)

  ちなみに、引用した詩は、
  もちろんバイロンで「アテネの乙女よ、君と別れるに先立って」です。
  アテネ、ではないですけれど、
  きっと二人別れる時、
  はるかはきっとこんな想いを抱えていたのではないかと思って、
  この小説用に訂正しつつ、引用しました。

    この作品は、2222ヒットを踏まれたモンキーエリカさまに捧げます。
  ありがとうございました!




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