×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。




金色のドレス



 「本当にお願いできます?」
 「よくってよ」
 うさぎに頼み込まれて、みちるは優しく微笑んでいた。
 「よかったぁ。もうどうなることかとおもったよぉ」
 今日はうさぎたちの高校の学園祭。
 女の子たちをモデルに仕立ててのファッションショーをやるはずが、モデル役の子が風邪でダウン。急きょ代役を探していたところ、はるかとみちるを発見したのだった。
 「おだんごあたまは出ないのかい?」
 「はるかさん、イタイところを・・・。私、衣装間に合わなかったんですぅ・・・。将来のためにも、と思ってウェディングドレスがんばってたのにぃ」
 うさぎは涙ぐんだ。見ると指先は針でつついたらしく、ばんそうこうが10本ともに貼られていた。
 「あぁ、悪い悪い。泣くなよぉ。」
 「うん」
 「うさぎ、あなた急がなくてもいいのかしら?」
 「あっ、そうだった。じゃあみちるさん、あっちで準備してください」
 みちるにせかされて、うさぎたちは体育館に向かった。
 体育館の舞台ソデが衣装部屋兼更衣室になっていて、中は本番直前でごったがえしていた。
 「みちる、ボクは客席で見てるよ」
 みちるが女子高生たちにまぎれていく後ろで、はるかは熱気に圧倒されて外へ出ようとした。
 その時、生徒にまざって奮闘している先生らしき女性がはるかを呼び止めた。
 「ちょっと、あなた。あなた、女性ね」
 「は、はぁ。まぁ・・・」
 はるかは突然呼び止めらた上、珍しく一発で女性と言い当てられて、何となく居心地悪そうに口をにごした。
 「緒方先生?い、今出ますから。ね、はるかさん?」
 緒方と呼ばれた女性教諭は目を吊り上げてツカツカと近寄ってくる。
 下着姿の女の子がいくらたくさんいようとも、はるかだって女性なのだから、何もあわてて出ることはない。だが、うさぎはなにを勘違いしたか、はるかの背中を押して外へ出そうとしていた。
 「月野さん、何やってるの!その人、あなたの知り合い?」
 「え?そ、そうですけど・・・あれ?」
 緒方教諭がはるかを男と見間違えたのではないことを、うさぎはようやく理解した。
 「あなた、背、高いわね。170くらい?」
 「は、はぁ。まぁ・・・。」
 「月野さん、この人・・・えーと」
 「天王はるかさんです」
 「そう、天王さんね。天王さんを連れてって、私の作品に合わせてもらってちょうだい」
 「え?」
 うさぎの目が点になった。
 「え?じゃないの!もう一人モデルが足りないの忘れたの?天王さんなら私の作ったドレス、きっとピッタリよ」
 「・・・え?」
 今度ははるかの目が点になっていた。
 (確かに自分は背が高い。少し肩幅は広いかもしれないが、スタイルだって悪くない。モデル向きと言われればそうかもしれない・・・)
 はるかは頭の中で緒方教諭の言わんとすることを理解しようと努めた。
 「いや、そういう問題じゃなくて・・・」
 考えていたことの続きが口をついて出た。
 「大丈夫よ。私の作ったこのドレス、あなたならピッタリよ。この日のために生徒に負けじと私もがんばったのよ。お願いよ、お願い」
 緒方教諭の手からは、チャイニーズ風のタイトなロングドレスが差し出されていた。
 うすい金色の布に透きとおるブルーの細いレースが、流れるようにところどころにあしらわれている。
 「きれいだな・・・」
 つい本音を口にするクセが出てしまったはるかに、緒方教諭は喜んで反応する。
 「そうでしょう。これを着るはずだった子も損をしたわよねぇ。さ、早く着替えて」
 「で、でも・・・あっそうだ。ほら、木野さんは?彼女ならピッタリなんじゃないのかな。ボクが着るより彼女に・・・」
 なかなかウンと言わないはるかに、緒方教諭の笑みがだんだんと消え失せていく。
 「その木野さんがダウンしてるのよ。着るの?着ないの?着るんでしょ?月野さんも何とかおっしゃいよ」
 「何とかって・・・」
 「おだんごぉ・・・」
 はるかの困り果てた顔を見ながらも、うさぎははるかのドレス姿を見たい気持ちでいっぱいになりつつあった。
 みちるはそんな様子を見てクスクスと笑っているだけで、サッサと自分の衣装の準備を進めている。
 「月野さん、今学期の成績、覚悟なさいよ」
 うさぎの背筋がピンとのびた。
 「はるかさん!きっと似合いますよ。ね、みちるさん、いいですよね!」
 『成績』の一言で、うさぎはあっという間に緒方教諭についた。そして、みちるにすがるように同意を求める。
 「私は構わなくてよ。はるか、あなたきっとステキよ」
 「ちぇっ、他人ごとだと思って・・・」
 そこへ進行役の亜美が舞台ソデの様子を見に来た。
 「舞台はじまりますよ。あら?はるかさんにみちるさん」
 「まぁ、水野さんともお知り合い?木野さんのことも知ってるんでしょ?もう決まりね。さ、天王さん」
 緒方教諭はすっかりその気だ。
 素早く状況を理解した亜美も、はるかに期待を込めた目を向ける。
 うさぎは成績がかかっているとあって、祈るような目ではるかを見上げている。
 はるかはたっぷり10秒はかけてみんなを見回し、そして言った。
 「よし、わかった」
 はるかは覚悟を決めた。
 「みんなの期待にはこたえなきゃな」
 そう言って自らジャケットを脱ぐ。
 やったぁ、という声に囲まれて着替えの準備にとりかかった。
 「大丈夫?はるか」
 心配になって声をかけたみちるの耳元で、はるかはささやく。
 「見てろよ、みちる。ボクだってスカートぐらいいつも着てるんだ。超ミニなやつをサ」
 そう言って、いたずらしようとしている少年のように目をキラキラさせた。
 「それって・・・」
 ウラヌス姿のこと?という言葉をのみこんで、みちるは別の言葉を返した。
 「だから心配なのよ」

 「水野さん!幕、開けて!」
 緒方教諭の声に、亜美が急いでオペレーションルームに入る。
 そこへステージ衣装姿の美奈子と熱のせいで目をトロンとさせたまことがやって来た。
 「愛野さん!何やってるの!早く!ステージ始まるわよ!」
 「はぁい、あれ?まこちゃんのドレスは?」
 「あれ、まこちゃん。大丈夫?じゃなさそうだねぇ・・・」
 「うさぎちゃん・・・。だって緒方先生すごく楽しみにしてたじゃないか。風邪くらいで休んだら後がこわいしさ・・・」
 「そ、それが、まこちゃん・・・」
 「ほら、愛野さん早くして!あら、木野さん。代役見つかったのよ。せっかくだから客席で見ていきなさい」
 緒方教諭にせかされて、美奈子とまことはそれぞれに散っていった。
 「やぁ、美奈子ちゃん。かわいいよ」
 「あら、あなたがまこちゃんの代役?」
 緒方教諭作である金色のタイトロングを身につけたまことの代役を見上げて、美奈子は得意のアイドルポーズを決めて見せた。
 それがはるかだとは、まったく気がついていない。
 「じゃ、ボクはすぐに出番みたいだから失礼するよ」
 そう言ってはるかは舞台へ上がっていった。
 「はるかさんス・テ・キ・・・」
 「え?」
 うさぎの言葉に美奈子は声を詰まらせた。
 「ウ・・・ソ・・・」
 「美奈子ちゃんわかんなかったのぉ?あの人、はるかさんだよ」
 「えー!は、は、はるかさんー!?」
 勝ち誇ったような態度のうさぎにくやしさをにじませながらも、美奈子は驚きを隠せない。
 「悔しいわね。はるかのほうが私よりも目立っているなんて」
 みちるがその言葉とはうらはらに、うれしそうに口をはさむ。
 「み、みちるさん。いいんですか?」
 「いいも悪いもはるかは女の子よ。時にはドレスだって着たくなるんじゃなくって?」
 みちるは楽しそうにコロコロと笑った。
 舞台に上がったはるかは舞台中央まで行くと90度向きを変えた。そして正面にまっすぐと延びた特設ステージへと足を進める。
 「では最初に緒方先生の作品です。タイトルは『シャイニング・ウィンド』モデルは天王はるかさんです」 
 亜美のアナウンスが流れ、ライトがはるかを照らし出す。
 客席ははるかの姿を見て『オォ!』という感嘆のどよめきにゆれた。
 その中で、まこととレイだけは椅子からズリ落ちていた。
 特設ステージをさっそうと歩くはるか。
 薄い金色のチャイニーズ風のタイトロングワンピース。ノースリーブぎみにカットされた肩口からはひきしまった腕がしなやかに伸びる。大きくとられたスリットの間からは、形のいい足が見え隠れする。表情も気のせいか、いつもよりもグッと女性らしい優しさに満ちていた。
 (シャイニング・ウィンドか・・・。こういうのもたまにはいいな)
 いつもの黄色い声とは違った反応を楽しみながら、はるかはチョッピリ緒方教諭に感謝するのであった。


END

>あとがき






風の広場へ
戻る
トップページへ
トップ