邪悪な気に満ちた場所に赴き、苦戦の末、なんとか敵を倒した二人。はるかとみちるは変身をとき、草原に腰を降ろした。 近ごろのはるかはムチャな戦い方をしている。 今日も例外ではなく、その体に傷を負ってしまった。 黒色のシャツでなければ、出血が見てとれていただろう、とみちるは思った。 それほどまでに、はるかの顔色は優れなかった。 「はるか、大丈夫?」 みちるは答えのわかっている質問だと思いながらもはるかに聞いた。 「あぁ、たいした傷じゃないよ」 みちるの予想通りの答えを、はるかは笑って言っていたが、ムリをしているのは一目瞭然だった。 そして、みちるの次の一言がはるかの理性のバランスを崩してしまった。 「顔が悪いわよ、はるか」 はるかは自分の耳を疑った。 「・・・え?」 信じられない、というまなざしを向けられ、みちるはあわてて訂正する。 「あら、失礼。顔色よ。顔色が悪いわよ、はるか」 「ひょっとして、いつもそんなこと思ってたのか?」 はるかはスネた少年のように口をとがらせた。 「何言ってるのよ。少し間違えただけでしょ」 「フツウそんな間違い方しないぜ。いつも思ってたんだろ」 はるかは、なおもみちるにツッかかる。 「何よ。私はあなたのこと心配して言ってるのよ」 「心配ならボクだってしてる。この前なんか心配どころじゃなかったんだぜ」 「いつの話よ」 「マリン・カテドラルでの事、忘れたとは言わせない。自分から言い出した約束を破ったのは誰だよ!」 「覚えていないわ!意識なんてほとんどなかったんだから。怒ってるの?それで近ごろのはるかったらヘンだったのね」 「あ、また言ったな」 「え?」 「今、ボクのことヘンって言ったじゃないか」 「ひとの言葉尻ばかりつかまえて、モウ!」 はるかの傷のことはどうなったのか・・・。 そこへプルートが冥王せつなの姿でやってきた。 「邪悪な気配を感じて来てみたのですが・・・。おふたりで片付いたようですね」 「険悪な気配は残ってるぜ」 はるかは、せつなにまでツッかかる。 せつなは不思議そうにみちるを見ると、みちるは肩をすくめて頬を軽くふくらませた。 「そうさ、ボクは怒ってるんだ。せつなは知ってたんだろう?ボクたちの中にタリスマンがあるってこと」 「ちょっと、はるか」 せつなに向いたはるかの矛先を、みちるはいさめようとした。 「いいんですよ」 「良くはないわ」 せつなが制止するのを振り切ってみちるは続ける。 「せつなには時の守人としての使命もあるのよ。そんなことはるかだってわかってるでしょ?これが私たちの運命だということも!」 「なんだよ、もっともらしいこと言ったってボクは騙されないぞ」 はるかには、自分でも何を言っているのか既にわかっていなかった。 思考回路のネジが何本か飛んでしまったらしい。 「スーパーの時はまだいい。スターズ以降、ボクがファンの子たちに何て言われてると思ってるんだ!ボクだっていろいろ読んで知ってるんだゾ」 どうやら同人誌のことを言っているのだ、とみちるは察した。 そして最近、何やら楽しそうに何冊も読んでいたことを思い出していた。 「関白失脚ね、でしょ」 いよいよ雲行きがあやしくなってきた。 「ボクはみちるの尻になんか敷かれてないゾ」 「そこまで言われているのですか?」 せつなもツイ口をはさんだ。 「みちるが強すぎるんだ」 「でもそれはみなさんの愛の形なのでは?」 「そうよ。はるかだって楽しそうに読んでるじゃないの」 2対1になって、はるかは言葉が続かなくなってしまった。 もともと口数の少ないはるかには、みちるひとりを相手にするだけでも手一杯だったのだ。 それでもはるかはがんばった。 「じゃあみちるもせつなも、運命に流されたままでいいと思ってるのかい?」 「違うわ、はるか」 みちるはクスッと笑って続けた。 「プロメテウスが火を盗んで以来、流れにただ身を任せないことが人間性の証しであることを、私たちは知っているでしょ?」 「何それ」 「いやね、ちゃんと自分のCDくらいは聞いてちょうだいよ。ファンの方たちはご存知よ」 「『ウラヌス・ネプチューン・ちびムーン・PLUS』の一節ですね」 せつなの言葉にみちるはうなづく。 さらにみちるは続けた。 「『みるをわーるど』のみるをさんも言ってたわ。『運命に流されることと、運命を受け入れることとは違う』って」 はるかは心を掴まれて揺すられたように感じた。 「あぁ、そうだ・・・。そうだった・・・。みちる、せつな・・・悪かったよ・・・」 みちるとせつなは顔を見合わせ、微笑みをはるかに返した。 「私もはるかに謝らなくちゃ」 「え?」 「約束破っちゃったでしょ」 はるかはもういいよ、と手を振った。 みちるの真意はとっくに理解できているのだ。 「もう一度、今度は違う約束をしましょ」 「何?」 「お互いに、先に死んだりしないって。お互いのために。私たちひとりでなんか生きていられないもの・・・」 「みちる・・・」 ボクの気持ちわかってくれてたんだ、と心の中ではるかは喜んだ。 「約束するよ、みちる」 「私もよ、はるか」 ふとみちるは、はるかの傷のことを思い出した。 「はるか、傷は?大丈夫なの?」 「大丈夫さ。優しくしてくれるんだろ?」 はるかは痛むハズの傷を押さえ、それでもうれしそうに笑って言った。 「よくってよ」 みちるもうれしそうに微笑んだ。 そしてはるかは、何か思い出したように、そうだ、と前置きしてみちるにささやいた。 「帰ったら、海辺の白い家を探そう」 「え?」 思いもかけぬ申し出にみちるは驚いた。 「あこがれなんだろ?寄せてはかえす波の音がいつも聞こえる、岬に立つ白い家さ。CDの中で言ってたじゃないか」 キョトンとするみちるに、はるかはパチンと片目をつぶってみせた。 ちゃんと知っているじゃないの、とみちるは喜び、はるかの左腕に自分の両腕を絡めた。 「さぁ。ふたりとも帰りましょう」 せつなに促され、三人は帰路へとついた。 END >あとがき |
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