午後から降り出した雨がやまないまま、その日は夜を迎えた。
ボクはひとり外へと出た。
夜の桜並木に明かりが灯っている。
きれいな夜桜。
ボクは一本の桜の木の下に足を運んだ。
あの日を・・・そう、忘れないために・・・。
あの日・・・。
ただひたすらにきれいな満開の桜が、こぼれんばかりのその花を、枝の先にたわわにぶら下げていた。
そして一本の桜の木の下で、ひとつの命が終わりを告げた。
忘れない・・・。忘れられない。
使命のため。
防がなかった危機。奪い合った輝く結晶。間に合わなかった命。
輝く結晶を失った身体は待ちきれず、ボクたちの目の前で輝く光の粉と変わってしまった。
その刹那、風がボクたちの足もとをすくった。
散ったのは、花びらと・・・そして儚き光の粉・・・。
突然に降り出した・・・星たちの涙とも思える冷たい雨が、とうに置いてきたはずのボクの心までを震わした。
忘れない・・・。忘れられない。
風になりたいと願うボクは、いったいどんな風になりたいのだろう。
あの時のボクは、春疾風の如くに散らす風・・・。
今ボクは、いったいどんな風になれるのだろう・・・。
END
>あとがき