世界が沈黙から救われ、はるかとみちるはお互いを必要とする存在なのだと改めて感じた。
そして、これからも運命を共にしていくのだと、心に誓った。
海沿いの道を、はるかの愛車TOYOTA 2000GTのエンジン音が風を切る。
ハンドルははるかが探し出したという家へと向かっていた。
「ちょっと電話するね」
はるかはみちるにそう断ると、信号待ちの間に携帯電話から短く用件を済ませた。
電話を切ると同時に信号の色が変わる。
滑るように車を発進させたはるかは、高鳴ってくる胸の鼓動を抑えることに苦心した。
「何の電話?なんだか楽しそうだったわ」
みちるに言われ、自分の口もとが緩んでいることにはるかは気が付いた。
「あ、あぁ。家の鍵をサ、持ってきてもらうように頼んだんだ」
「あら、はるかは持って来てなかったの?」
みちるが意外そうにたずねた。
「う・・・ん。だってそれじゃあ、あまりにも自信過剰だろ?」
「まぁ、はるかったら」
「なぁんてね。さすがに未成年相手に家は売ってくれなくてサ。ちょっと知り合いに頼んだんだ。これから持って来てもらうよ」
はるかは早くみちるに家を見せたかったが、車で行けば10分もかからない場所だ。そんなにすぐ鍵が開くとも思えない。
「少し時間をつぶそう」
はるかはそう言って、近くの喫茶店へと車を寄せた。
はるかはコーヒー、みちるはレモンティーでそれぞれ喉を潤しながら、取りとめもない会話を楽しんだ。
今日見てきた梅の花のこと、フリスビーをうまくキャッチしていた犬のこと、そして今日見せようとしている家を探し歩いた時のこと。
フイに会話が途切れ、はるかの目が遠くを見つめた。
「ほたる・・・元気かな・・・」
つぶやくはるかを見て、みちるは優しく微笑んで言う。
「大丈夫よ。土朋教授は愛の深い方だわ」
「う・・ん。そうだな・・・」
はるかは少し感傷的になっている自分を見つけ、軽くひとり笑いすると、カップの中身を一気に飲み干して立ち上がった。
「そろそろ行こうか」
「ええ」
二人が店の外に出ると、透き通った蒼の空をオレンジの光が美しく染め始めていた。
その光を少しばかり帯びたはるかの車は、目の前の丘を勢いよく駆け登っていった。
第1章 END
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