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いままで・・・だけど、これから

第2章




 センターラインのない細い道路に沿って、レンガ敷きの歩道が延びている。
 はるかの愛車は一軒の家の前にくるとその歩道を横切って、蔦の絡まるアーチ状の門の中へと入った。
 正面にはエーゲ海を見下ろす町並みの建物を連想させる、質素だけれど品のある白壁の家が二人を出迎えていた。
 白い鎧板を付けた窓が開け放たれている。
「もう鍵は開いてるみたいだな。車、ガレージに入れてくるよ」
 敷地は広く、二人で住むには大きめの家の周りにはたっぷりとスペースがとられていた。所々がめくれてはいたが、そこには芝生が敷き詰められていて、その中に2本の古いレンガ道が作られていた。
 1本は門からガレージへと向かう幅広の弧を描いた道。もう1本は門から玄関へと真っすぐにのびた道だった。
 みちるは車から降りると、1本のレンガ道を玄関へと進んだ。
「ステキ・・・白亜の館ね」
 そう言ってみちるが見上げた2階の窓が、カタンと音を立てて開かれた。
 中から白髪の混ざった女性が顔を出し、ペコリとひとつ頭を下げた。
「上から失礼しますよ。お嬢様、お久しぶりです。今、下に行きますから」
 女性はそう言って窓から姿を消すと、隣の部屋の窓を次々と開けていった。
 みちるは、今見た女性が誰だったかと記憶を巡らせた。
 しかしどうも思い浮かばない。
 目の前で見れば思い出すかと思い、みちるは玄関の扉に手をのばした。と同時に扉が開き、中から先ほどの女性が姿を見せた。
「お嬢様、お元気そうで・・・」
 女性の視線が自分を通り越していることにみちるは気付いた。
 後ろには、車をガレージに入れたはるかが近寄って来ているだけだ。
「ユキさんも。でも、その『お嬢様』はもう勘弁してよ」
「何をおっしゃいます。私にとってはるかお嬢様は、いつまでたってもお嬢様ですよ」
 久しぶりの再会を懐かしむ2人の間で、みちるは軽く衝撃を受けながらも、以前はるかから聞いたことを思い出していた。
はるかの父は年収何十億という会社をいくつも持っている人で、はるかの所属するモーターチームのスポンサーにもなっていた。
 母のことは聞いたことがなかったが、はるかがお嬢様と呼ばれていたとしても不思議ではない家柄の人間だったことに、みちるは今さらながらに気付いた。
「みちる、紹介するよ。望月幸世さん。ボクの母親みたいな人なんだよ」
「はじめまして」
 みちるが上品に腰を折って挨拶をする。
「ユキさん、彼女はボクの・・・その・・・とても大切な人なんだ」
 はるかが少し照れながらもみちるを紹介すると、幸世は嬉しそうながらも涙ぐんだ。
「ようございました。お嬢様に心をお許しになる方がいらっしゃって・・・。奥様もきっとお喜びですよ」
 はるかはためらいがちに微笑むと、家の中へと2人を促した。
「奥様・・・て、お母様のこと?」
 はるかの後ろから家の中に入りながら、みちるがはるかに尋ねた。
「うん。もっともボクは写真の中でしか知らないんだけどね」
「え・・・?」
「奥様は、はるかお嬢様をお産みになられて間もなく亡くなったんですよ」
 幸世がはるかの言葉に補足した。
「ごめんなさい、私・・・知らなくて・・・」
「いいサ。気にしてないよ」
 謝るみちるに、はるかは優しく言葉を返す。
「母は体が弱かったらしくてね。ユキさんはボクが生まれる前から、家のことを手伝ってくれてたんだ」
 それで母親のような人なのかと、みちるは合点がいった。
 3人が玄関を入ると、海からの風が優しく肌を滑っていった。
 広い土間の奥に大きなリビングが続いている。リビングの大きな窓からは、海を見渡すことができた。
 みちるはリビングからテラスへと出ると、海から吹く優しい風が潮の香りを乗せて部屋の中を駆けていくのを感じた。
「なかなかいい眺めだろ?」
「ええ、ステキな場所だわ」
「前の持ち主が別荘兼、ホームパーティー会場にしてたらしいよ。音楽家だったみたいでさ、地下に防音室もあるんだぜ」
「うれしいわ、はるか」
 得意そうに説明するはるかに、みちるは「子どもみたい」とつぶやきながらクスッと笑ってそう言った。
「幸世さんは・・・はるかの小さい頃をよくご存知なのですね」
 みちるは幸世に向き直り尋ねた。
「そりゃあもう。はるかお嬢様のお小さい頃といったら・・・」
「あーっと、ストップストップ!」
 幸世が楽しそうに話し出したところで、はるかがそれを止めた。
「あら、私伺いたいわ」
「そういうことは、本人のいない時にしてくれよ」
 残念そうにいたずらっぽく笑うみちるに、はるかは口をとがらせてダメダメと首を振った。
「シャンパンでも買ってくるよ。ボクがひとりで行ってくるから、その間に昔話は済ませといてくれよ」
「ありがとう、はるか。ごゆっくり行ってらして」
「いいや、急いで行ってくるサ」
 はるかはパチンと片目を閉じて言うと、車のキーを手に取った。
「はるかお嬢様、昔と変わっていらっしゃいませんね・・・」
「え、何?」
「よくそうして旦那様との橋渡しをさせられましたもの・・・」
 幸世のしみじみとした言葉に、はるかは苦笑いを残して家の外へと出て行った。


第2章 END

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